2012-08-01から1ヶ月間の記事一覧

20さつめ 貴志祐介『十三番目の人格 ISOLA』 角川書店

★2 中盤までは、普通のサイコホラーかつ診察がタルいので惜しい。由香里は見えることの苦痛。弥生は見られることの苦痛。2人の体験を統合すると、大抵の人間は怨念を誘発する精神性ということで、このオチは自然。QB的エントロピー増大世界観。エンパシー…

19さつめ 飴村行『粘膜人間』(角川ホラー文庫)

★4 舞台はソ連のような可能世界の戦前日本、人間と河童が併存している。登場人物たちが「殺す」「探す」「記憶を取り戻す」と、欠けているものを宣言するロールプレイングゲームのように分かりやすいエンタメの作り。何か読んだ人の糧になる私小説のような…

17さつめ 矢部嵩『紗央里ちゃんの家』 角川書店

★1 異常な語り手が、異常な状態に遭遇する。審査員が挙げている『ねじの回転』の主人公は、まだしもその「欠落感」に共感できて面白かったが・・・。序盤以降は娯楽的な欠落感がないです。ギャグを書くのに失敗したみたいな文体が計算なのか、狂気を演出し…

18さつめ プラトン『饗宴』 (岩波文庫)

★3 ディオティマは、愛するとは「肉体の上でも精神の上でも美しいもののなかで生産すること」だという。愛の目的は不死である。生産は、自らの分身を他者のうちで永遠に生かすために行われる。肉体への愛から学習を進め、精神における知識の愛へと至らねば…

15さつめ 西尾維新『ネコソギラジカル(下) 青色サヴァンと戯言遣い』 (講談社文庫)

★2 「世界って、終わらないじゃないですか」(289) そうっすね。この言葉で逆上する敵なので安い。戯言遣いは哀川潤を親にして、想影真心に通過儀礼という仮構を作ってやる。狐は空虚。どうしても折り合えない存在はどうしても存在するので殺す。これは良…

16さつめ 泉和良『エレGY』(講談社BOX)

★2 知人が読んでいたので。「今すぐ、パンツ姿の写真を送ってください」。主人公の名前は泉和良。作者の名前は泉和良。巻末の著者紹介といい、話の淡々としているがゆえのリアルさといい、私小説風なところが評価されたのだと思う。そうだとすると、泉和良…

14さつめ 川端康成『眠れる美女』 (新潮文庫)

★2 「ハーレムものの読者が主人公のハーレムものが読みたい」 「どうしてそんなこと思ったんだ?」 「だって主人公がモテても俺は蚊帳の外じゃん。俺だってモテたいよ」 「うーん、君の絶望に近いのは川端康成の『眠れる美女』だろうね。それと君の話だが、…

13さつめ 田山花袋『蒲団・重右衛門の最後』 (新潮文庫)

★3 2週目。思ったより独我論的じゃなく、語り手があちこちで登場人物の心に侵入している。「芳子を国に帰すですか」「芳子を父親の監督に移したです」という日本語が可笑しい。半事実への関心+1回目なら今でもそこそこ面白いでしょう。重右エ門はつまらなさ…

12さつめ 『限りなく透明に近いブルー』(講談社文庫)

★1 つまらっしゃい。何も起こらない小説なのである。解説の今井氏の解釈が「じつはどのような行為も存在しない」なので、こう書いてもそれほど的外れでもないだろうと思う。日常系だ。薬物と汚物と暴力を部室にした日常系。物語がなく、痛々しい告白がなく…

11さつめ 『マイノリティ・リポート―ディック作品集』 (ハヤカワ文庫SF)

★4 情報による人格の揺らぎ、気まぐれが興味深い『マイノリティ・リポート』が最良。難解なので読み返したい。世界線じゃなく時間線。『ジェイムズ・P・クロウ』は「創られた伝統」に関係する、いわばセカイ系。シュワルツネッガーの映画『トータル・リコー…

第一回ベストオブ10 1〜10

10冊読んだ中から最良の1冊を選ぶベストオブ10。村上春樹『風の歌を聴け』に決定。http://d.hatena.ne.jp/novel200/20120722/p1